【ラグビーを読む】第12回

 岩出雅之『逆境を楽しむ力 心の琴線にアプローチする岩出式「人を動かす心理術」の極意』日経BP(2022年)

 帝京大学ラグビー部は10連覇をかけた2018年に大学日本一を逃し、ここから3年間優勝に手が届かなかった。監督だった著者は、大学日本一を逃した原因が、組織の構造やマネジメント、文化のほころびにあると考え、改善に乗り出した。Z世代と呼ばれる大学生たちをどのようにして再び勝てるチームに戻していくか。組織再生の在り方を知ることができる一冊だ。

 本書のキーワードの一つ「逆ピラミッド化」に注目したい。4年生を頂点にしたピラミッド構造は体育会系では珍しくない。「4年生は神様」理論で部内の雑用は全て1年生がやるのが当たり前。著者は2010年ぐらいからそれをひっくり返した「逆ピラミッド化」に取り組み、学生の心理的余裕を生み出そうとした。

 これが9連覇の原動力の一つになったことは間違いないのだが、ここに思いもよらない落とし穴があったのだ。著者の失敗談やそこから生まれた成功例、そしてその上に確立した「心理的安全性」が分かりやすく書かれており、人の心を動かすことの難しさや楽しさ、重要性がずっしりと伝わってくる。他にも学生心理に基づいて説かれたさまざまな理論は読者に新たな発見をもたらしてくれる。

 私も大学生になった頃と今を比べると心身ともに大きな差があるなと感じる。何事も始めたての時は心理的な余裕が生まれにくい。自分の心理状態をよく理解し、それをどのようにコントロールしていくかが重要なのだと気づかされた。そして選手や指導者がそれぞれどう動けばチームに良い影響を与えられるのか、チームスポーツの醍醐味でもある人と人との関わりをより深く考えるきっかけにもなった。

 著者のチーム作りの極意や、覚悟を持って逆境を乗り越える力の蓄え方は、私のこれからの活動にも大いに役立つだろう。

(江戸川大学マスコミ学科、吉田妃麻里)