【ラグビーを読む】第13回
土井崇司『もっとも新しいラグビーの教科書 今、鮮やかに最新理論として蘇る大西鐡之祐のDNA』ベースボールマガジン社(2015年)
ラグビーについて深く考えるきっかけとなり、読後にはプレーする面白さが大きく広がるだろう。本書は平易な文章と図で基本的なゲームの構造を解説し、試合でのプレーの組み立て方までを丁寧に説明している。
著者の土井崇司はラグビーが確率のスポーツであると強調する。平均的な試合の攻撃起点の数とトライ数から割り出すと、94%のプレーはトライにならない。「このトライにならない状況でどう戦い進めるかが、試合の趨勢を左右」するのだという。
そこで重要なのが台本の存在である。「台本を持っているチームと持っていないチームを比べれば、持っているチームのほうが絶対に強い」と断言する。台本通りに試合が動くことは滅多にない。しかし台本がなければ、すべてのプレーがその場で考えた行き当たりばったりになってしまう。
多くの選択肢を用意することは、戦い方を相手に限定させないことになり、トライの確率を上げることにつながる。本書の教えは、確率の高いプレーだけを選択するということではない。試合中に起こる確率が低いプレーでも、そのプレーの台本があれば、試合を決めることがある。接戦で、また残り少ない時間帯で、台本は重要性を高める。
後半の実践編はもちろん、前半の理論編も含め、実際のプレーに即した試合の教科書だと言える。だが他競技の選手や、スポーツをプレーしない人にも役立つ要素がある。何にでもイレギュラーな出来事はつきものだし、台本があることでそのイレギュラーに対応ができるようになり、主導権を握るきっかけになるのは、ラグビーでなくても同じだろう。そして台本があるということは、その前に仲間としっかりとしたコミュニケーションが取れているということでもある。そんな組織なら一人一人が生き生きできるはずだ。
(江戸川大学マスコミ学科、渡邉壱輝)