【スポーツを読む】第18回

二宮寿朗『ベイスターズ再建録 『継承と革新』その途上の10年』双葉社(2021年)

 2011年までの10年間でセ・リーグ最下位が8度だった。その横浜ベイスターズをIT企業のDeNAが買収し、2012年から「横浜DeNAベイスターズ」として再建した記録である。発足当時の高田繁ゼネラルマネジャー(GM)や、初代監督の中畑清、現在の三浦大輔監督ら球団の中枢から、元選手で社員となった桑原義行(2025年シーズンから2軍監督)ら現場でイベント運営にかかわったメンバーまでを幅広く取材している。

 

 話は戦力充実よりもむしろ集客から始まる。DeNAが買収した当時は、成績低迷が原因で、横浜スタジアムにファンが集まらず、いつでもチケットが取れるほどだった。スタジアムにファンを取り戻そうと考案されたイベント「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」や、2018年に球団70周年記念プロジェクトとして行われた「ハマスタレジェンドマッチ」などの裏話が興味深い。

 桑原は2011年限りで引退して球団職員になる約束ができていたが、引退直後に球団が身売りされ、親会社がTBSからDeNAに代わった。「機構図に名前が載っていない」という状況から、働きを評価されて2013年に「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」のプロジェクトメンバーに配属された。だがイベントは試合結果に左右される。3連戦で3連敗。セレモニーが開催された3戦目は、六回までに12点を奪われた。照明を落としてセレモニーが始まり「みんなで一つになってCSに行こう」と電光掲示板に映し出されると、配布されていたペンライトが観客席から次々とグラウンドに投げ込まれた。ペンライトを拾い集めながら、球団職員はプレーとエンタメの両立の大切さをあらためて痛感したという。

 2024年、ベイスターズはリーグ3位からCSを勝ち抜き、26年ぶりの日本一を達成した。長く、平坦ではないが、着実な歩みが、この一冊に記されている。

(江戸川大学マスコミ学科、吉田達哉)