【ラグビーを読む】第5回
『ノーサイド 勝敗の先にあるもの』
村上晃一 あかね書房(2021年発行)
2022年9月16日執筆
高校ラグビーの全国大会は「花園」と呼ばれる。高校野球が「甲子園」であるように、全国大会が開催される東大阪市花園ラグビー場の名が、大会の通称になっているのだ。本書は2021年1月3日に行われた花園の準々決勝、東海大大阪仰星-東福岡の激闘とその裏側を伝えるノンフィクションである。
第100回記念大会はコロナ禍によって無観客で開催された。本来なら1万人以上のラグビーファンが観戦したはずの名勝負は、歓声を浴びることなく、異例のロスタイム18分を戦い抜き、21-21で引き分けとなった。
公式記録は引き分けである。ただしトーナメント制の花園では、引き分けとなった場合に次の試合へ進む権利を抽選で決めることになっている。両キャプテンによる抽選の結果、準決勝へ進む権利をつかんだのは東福岡高だった。
本書で最も印象に残るのは、ロスタイム18分という戦いを振り返る両校のキャプテンの言葉である。準決勝に進めなかった東海大大阪仰星高の近藤キャプテンは「おたがいにはげまし合って、30人でラグビーをしているような、初めての感覚になりました」と試合を振り返り「試合中にノーサイドが来ていたような気がします」と話したのだ。対する東福岡高の永住キャプテンも同じ感覚だった。「おたがいにきついのが分かる。それでもみんな走り続けている。おたがいの勝ちたいという気持ちをリスペクトし合っているという感じですかね。そういう感覚になったのは初めてでした」と語った。
試合が終われば敵味方はないという意味のノーサイドの精神が、試合中に生まれていた。認め合うライバルが試合中に感じた不思議な一体感。なぜこの一戦が究極の試合となったのか…。元ラグビーマガジン編集長の著者が小中学生にも読めるように、わかりやすく記している。上級生のメンバーにぜひ読んでもらいたい。
(江戸川大学マスコミ学科、枝川皓輔)